「藪会方式」樹勢回復

 藪会は、この会を主催する内田清市親方が実施してきた樹木の治療方法を、多くの樹木に携わる方たちに普及し、世の多くの樹木を大切にしてほしいとの思いから発足しました。樹木の命を大切に思う人々が集まり、樹勢回復の研究をする会として、10数年前から病んでいる樹木と向き合い、樹勢回復の方法を研究してきた会です。平成18年1月に発展的に解散し、NPO法人藪会に衣替えをして再スタートしました。
 藪会の研究会のもうひとつのあり方は、どうかという現場主義ということでしょうか、樹木の治療に当たる人が樹木にふれ、実際に作業で手を汚し、経験を積む方向で研究を続けています。もちろん学問的な研究も重要なことですが、学問と並行して現場での実行が重要なことを経験的に知っているからです。

・藪会の樹勢回復のコンセプトは「樹木のために」です。

樹木は生きています、歳もとります、元気な時もあれば病気になることもあります。樹木が元気で美しい姿を見せるために、どのように人間がかかわれば良いのか?

 

藪会は、樹木自身が持つ自然治癒力をどのように人間がかかわれば良いのか?

 

藪会は、樹木自身が持つ自然治癒力をどのように引き出して樹木を元気にするか、自然回復力の活用を研究のテーマとして取り組んでいます。

 

藪会の樹勢回復の先生は、自然界の樹木であり、自然の森です。

 

そのような考えから、よく樹木の治療として、モルタルやウレタンを使用した樹木治療が見られるが、藪会は、このようなモルタルやウレタン等を使用した治療は一切しません。なぜなら、モルタルやウレタン工法が樹木のために良い点を見つけることができないからです。

 

具体的な樹木回復の流れは「藪会式樹木回復フローチャート」に示しています。対象樹木があると、事前調査を行う、樹木の現状を観察することは重要なことであるが、戸籍や故事来歴、最近の対象樹木を取り巻く環境の変化などの調査も重要な項目です。また、樹木自体の経年的な変化も樹勢の回復にあたって、重要な因子となります。

 

まずは、対象樹木の立地環境(主に土壌環境)が、どのような状況であるか、元気な樹木が存在するための項目は一にも二にも樹木が植わっている場所の立地環境によることが多い。

 

土壌のphや、立地環境での水の動きはどうだろうか、最近立地環境に変化(特に盛り土や施肥など)はなかったか、樹勢の衰退時期と重なるような場合は、それらの因子にも注目が必要です。

 

日本の森林土壌のphは、弱酸性であることは知られています。これらは、日本の樹木に良い環境条件で、樹木の葉が落ちて、落葉として多くの土壌動物や菌類の力によって、腐葉土化し自然に土にかえり、また、樹木の栄養となって元気な樹木のために働く、こうして、自然が循環していく。

 

私どもが対象とする樹木は、人間の都合によって、移植されたものが、そのほとんどで、立地環境も、人間によって造られた箇所が多い。そんなことから、樹木自身もある意味で苦しい環境にある。

 

立地環境の環境改善は、自然樹木が生育できる環境に少しでも近づけることに尽きる。大きくは、地下の水の流れを改善する、土壌phを弱酸性方向に改善する。

 

この場合、樹木の根の分布は、樹木の大小にかかわらず、活動している根(「生活根」と呼んでいる)は地下1m以内に分布している(樹体を支えるための根は深くまで分布する)ので、そのことを踏まえて対処することが重要である。

 

立地環境の改善が進むと、樹木の勢いは自然と良くなってくる。それを確認してから地上部の治療を実施してもけっして遅くはない。

 

地上部は人の目につきやすく、立地環境の改善が行われないままに地上部の治療をしているのを見かけることがあるが、体力のない樹木の地上部治療を行っても、その回復は進まず、回復をしても、多くの時間を必要とする。地上部と地下部の治療の順序をまちがってはいけない。

・不定根と不定根の活用

樹木は、樹勢回復のために自ら不定根を出すが、成長の環境が遮断されて、枯れていくものが殆どである。成長の環境が整えば、地表まで達し樹勢を回復しているものも見られる。

 

自然発生の不定根(以下「自然不定根」ということにする)は、サクラ類、ケヤキ、クスノキ、イチョウ、ムクノキ、ブナなど色々な樹種に見ることが出来る。

 

藪会の治療方法は、この樹木自身の持つ自然回復力を活用し、不定根の発生を誘導することや、発生した自然不定根が枯れないように、不定根の成長環境を整えて、不定根の成長を促して樹勢の回復を図るもので、「樹木を治す」のではなく「樹木が治す」のに人間が手を貸すというスタンスで取り組んでいる。

・早期発見と予防

藪会の治療方法について述べたが、本来は治療を必要としないことが望ましいことで、治療が必要な事態に至る前に予防をすることが最も重要なことです。予防が叶わず、樹木が病んだ場合は、早期に樹木の健康状態を把握し、早期に手当をすることが大切です。藪会に持ち込まれる治療相談の大半が、末期的な症状を呈する状況のものが多く、「せめて3年なり5年前に相談してくれれば・・・」と思われるものに出会うことがある。

 

樹木の健康の状況チェックで、日ごろ気をつけて見ていると、開葉の時期が他の樹木より遅い・葉の量がすくない・葉が小さくなる・極端に多くの花(実)を付ける・落葉の時期が早い・落葉すべき葉がなかなか落ちない、また、いつまでも梢についている、梢端部枯れが見られる。などは樹木が危険サインをだしている。

 

また、藪会が出会う樹木は、人工的に植栽されたものも多いが、植栽時の支柱が、放置されて、樹木に損傷を与えている事例が多く見られる。新規植栽の場合は、必要に応じて支柱が必要であるが、普通根がよく発達し事前に移植の準備のされた樹木であれば、2年もすれば支柱なしで十分自立できると思われるが、強く結束され、3年も5年も放置されると、かえって樹木の生長を阻害することになりかねない。不要な支柱によって成長が阻害されたものが数多く見受けられる。状況を判断して、必要のない支柱は早期の取り除きが望まれる。

・損傷部位の治療

樹木の地上部の損傷は、実にさまざまで、大きさ・形状・損傷の発生箇所・発生の原因その治療方法は1口で述べることは難しいが、藪会の手法は、まず樹木自体を元気にする(前述したように、立地環境の改善が必要な場合は、それらを実施して樹勢を回復する)

 

それから、損傷部位の治療を行う。損傷部の治療は、カルス(癒傷組織)の発達の促進と不定根の発生誘導による損傷部の回復ということになる。カルス(癒傷組織)の発達は、年間数ミリ程度と大変遅い。不定根の成長は、年間40~80cm程度とカルス(癒傷組織)に比べるとその成長は格段に早い、しかし、目的とする箇所に不定根の発生を誘導することは、相当の技術と経験が求められる。治療の考え方の基本は「樹木のために」ですから、色々な場面で、どのような治療をすべきか判断に苦しむ場合は、「その手法が樹木のために良いか」を判断の基準にする。

・治療と検証

藪会の樹勢回復の研究会は、治療と検証を繰り返しているところにその特徴があると思われる、樹勢回復治療を実施後、3年を基準に検証を実施する。立地環境についての検証は、根の発生状況を確認することも行うが、最近は根の発生状況が地上部の葉の状況からかなり判断が出来るようになってきた。

 

地上部の検証は、損傷部を覆っている治療資材を開放して、カルス(癒傷組織)の発達状況の確認と不定根の発生誘導の成果などを確認、再治療の必要性の判断などを行い、必要に応じて再治療をを行う。これまでに多くの失敗を重ねてきた、失敗は治療に多くの教訓を与えてくれます。

 

3年目を基準に検証することに、もうひとつの目的があります、早期発見と予防の項で述べましたが、結束による樹木への障害です、治療のために行った治療資材の結束が、樹木にストレスを与えかねません、そこで結束を開放すればストレスも解放するのです。

 

成長の早い若木では、3年でも長いのかもしれません、治療木を時折点検することが大切です。


・樹勢回復フローチャート


・具体的な治療方法

▲治療技術模式図
▲治療技術模式図

  当会の治療技術は先に述べた古くから林業技術として活用されている「樹木の組織と生理の特性」を効果的に組み合わせ、独特の治療方法によりこれらの特性を活用させる技術として確立させたものである。

 すなわち、この治癒技術は、樹皮の被害部位にカルスを発達させ(癒傷組織の形成)、併せて不定根発根誘導部位(樹皮の被害部位の上部の狭くなった部分)から根を発達させる。(不定根の発生)

  これと被害部位周囲の形成層等と接着融合させ(植物組織の接着・融合)、治癒させるものである。

 なお、心材部まで腐朽が進行して被害部位が塞がらない場合は、必要に応じて内部に仮木部を作るが、不定根をそのまま伸長、発達させて支持根として機能させ、樹体を安定させる。根は引っ張り応力に対して極めて強い。(治療技術模式図参照)


・土壌改良技術

樹木は一般にpH5程度の土壌条件のもとで養成または植栽されることが望ましい。樹木本来が持っている自然回復力によって被害部位の治癒や樹勢を回復するためには、植栽カ所の土壌改良の良否がその成否を決めるといっても過言ではない。

 当会の土壌改良技術は、樹木が遷移系列のほぼ最終段階を構成する植物であり、これが生育する森林土壌に着目しているところにその特徴がある。

 すなわち、樹木は本来、森林土壌の中で長期にわたって生育される樹種である。

土壌改良に当たっては、農作物に対する発想ではなく、森林土壌の現実、すなわち、膨潤で、通気性がよく、ミミズ類、昆虫類等の小動物、微生物が活動する団粒構造を持った森林土壌等と共通する土壌(pH5程度)の造成を目指すことが重要である。

 このことから、土壌管理に当たっては森林の物質循環、すなわち、落葉、落枝等の有機物の供給と併せて有機質肥料を中心に使用することとし、化成肥料等速効性の肥料や、土壌をアルカリ性にするための石灰等の肥料は使用しない。

 当会では、独自の有機質土壌改良資材「ワカホ」を使用し、土壌改良の成果を上げている。